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内村航平が決めた着地

内村が最後の種目である鉄棒の着地をピタリと決めた瞬間、僕は泣いてしまった。僕はスポーツの中で1番体操競技が好きで、今までも体操をみていて泣きそうになったことは何度かあった。だけど涙を抑えきれなかったのは初めてだった。

 

去年、内村はモントリオールで開催された世界体操の予選中、跳馬の演技で左足の靭帯を切る大ケガをした。その後のインタビューでは、2020年の東京オリンピックに向けて調整を続けていくと語っていたが、今年3月にカタールのドーハで開催された種目別のワールドカップでは、出場したあん馬跳馬、つり輪、鉄棒の4種目すべてで予選落ち。4月の全日本体操選手権では、優勝を19歳の谷川翔に奪われた。内村は現在29歳。体操選手の28歳は決して若い年齢ではない。メディアや関係者が内村の衰えを指摘するなか、内村自身も回復に衰えを感じていると語っていた。

 

しかし5月、たまたまつけたテレビの番組を観て驚いた。そこには新しい技の習得に励む内村がいたのである。その新技はブレッドシュナイダーという、鉄棒の離れ技のなかで2番目に難しいH難度の大技で、世界でもできる選手は非常に少ない。「めちゃくちゃ難しい!」「全然つかめねぇ!」とか言いながら、衰えていっているはずの内村はチャレンジを続けていた。確かに衰えていってるはずなのに。ケガをしていたはずなのに。内村はまったく諦めていなかった。

 

そして迎えた先日のNHK杯。床から始まり、あん馬、つり輪、跳馬、平行棒が終わった。全6種目のうち5種目を終え、残すは鉄棒だけ。このときの内村は総合3位。1位は順天堂大学谷川翔、2位は日本体育大学白井健三だった。1位の谷川との点差は約0.6、白井とは0.3くらいだったと思う。

 

この3人の鉄棒の演技構成の得点(Dスコア)は、実は内村が1番高い。白井もF難度のポゴレロフという離れ技を持っているが、離れ技の数やG難度のカッシーナを入れた演技構成は持っていないので、Dスコアでは内村に届かない。谷川もポゴレロフやトカチェフ系の離れ技を持っているが、コバチ系の技は構成に入っていない。やはりDスコアでは内村に届かない。

 

つまり完璧に演技をこなせば内村にも逆転のチャンスがある。ただし一つでもミスをすれば優勝はおそらく絶望的。もしかすると谷川と白井がDスコアを引き上げた構成で臨んで来るかもしれない。そうなっても優勝は絶望的。本当にそんなギリギリの状況だった。会場内が異様な緊張感に包まれる。誰も言葉を発しようとしない。そんな中で内村の演技は始まった。

 

内村はコバチ系の技を誰よりも高く美しくこなす。コバチ系の技は、バーから手を離すタイミング、あふりのタイミング、これらが少しでもずれると、キャッチの時に腕が曲がったり、次の車輪にスムーズに繋げられなかったりする。今やほとんどの選手が鉄棒でこのコバチ系の技を取り入れているが、内村ほど美しくこなす選手を僕は知らない。ロンドンオリンピックの時もリオオリンピックの時も、僕は内村のコバチに魅了されていた。

 

この日の内村のコバチは、過去なんども僕が魅了されたコバチだった。コバチ系の技を一通り成功させた内村は、そのあとの技も一つひとつ丁寧に、美しく、確かめるようにこなしていく。そしていよいよ終末技。伸身の二回宙返り二回ひねり。着地は、、、

 

決まったーー。

 

 

昨年の靭帯断裂、カタール全日本総合選手権での雪辱、囁かれる引退の声、新しい技の習得に臨む内村、それらが一気にフラッシュバックした。

 

涙は止められなかった。

 

内村の次に演技をした白井はミスがなく素晴らしい演技で点数は14.066。続く谷川はポゴレロフで落下があり11.700。内村は勝った。

 

そのときの内村の鉄棒の演技がこれだ。

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7月1日は、「第72回 全日本体操種目別選手権大会」がある。内村はそこで初めてブレットシュナイダーを公式の試合で使う。